脂肪肝とはABOUT
肝臓に脂肪が過剰に蓄積する状態を脂肪肝と呼びます。健康な肝臓には通常、脂肪はほとんど含まれていません。
脂肪肝に蓄積する主な成分は中性脂肪です。通常、口から摂取した脂肪は小腸で分解され、脂肪酸などが肝臓に送られます。そこで再び中性脂肪として合成され、全身に運ばれますが、この合成量が排出量を上回ると脂肪が肝臓に蓄積され、脂肪肝となります。
中性脂肪は脂質の摂取過多だけでなく、過剰なブドウ糖摂取からも生成されるため、糖分の摂取にも注意が必要です。
近年、健康診断で脂肪肝と診断される人が増加しており、その傾向は年々増しています。以前は深刻な病気とは考えられていませんでしたが、アルコール性脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎など、肝臓が線維化して肝硬変に進行する病気もあります。
アルコール性脂肪肝(ASH)
アルコール性肝障害は、習慣的に飲酒する人が大量にアルコールを摂取した際に発症する疾患です。通常、肝臓は痛みを感じにくい臓器ですが、アルコール性肝炎を発症すると、腹部の右上部に痛みが生じることがあります。
血液検査の結果は、飲酒以外の原因による急性肝炎と類似していますが、大量飲酒の既往があれば診断は比較的容易です。
必ずしも大量に飲酒する人だけが発症するわけではなく、特に女性は少量の飲酒でも男性より発症リスクが高いとされています。一度アルコール性肝炎を発症すると再発しやすく、進行すると肝硬変に至ることもあります。
また、アルコール依存症が関与しているケースも多く、その場合は専門的な治療が必要となります。
非アルコール性脂肪肝障害(NAFLD)
肝細胞(肝臓を構成する主な細胞)にトリグリセリドという脂肪成分が過剰に蓄積した状態を脂肪肝と呼びます。
脂肪肝の原因はさまざまで、肥満、2型糖尿病、過度の飲酒、薬剤、ウイルス肝炎などが関与していることが知られています。特に、肥満や急激な体重増加が原因で発症する脂肪肝は非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD:ナッフルディー)と呼ばれます。
NAFLDの患者数は非常に多く、アジア人成人の罹患率は男性で32.2~41.0%、女性で8.7~17.7%と報告されています。さらに、日本人の健康診断受診者を対象とした研究では、NAFLDの罹患率は2001年の18%から2009~2010年には29.7%へと増加しており、年々増加傾向にあります。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)は、脂肪の蓄積に加えて肝臓に炎症が生じた状態を指します。NAFLDの患者のうち約1~2割がNASHとされており、進行すると肝機能の低下を引き起こします。
NASHは初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、数年から十数年の経過を経て肝硬変へと進行することがあります。肝硬変になると、倦怠感、食欲低下、むくみ、腹水による腹部膨満感、黄疸(白目や皮膚の黄変)といった症状が現れます。
一度肝硬変にまで進行してしまうと、治療を行っても元の健康な状態に戻ることはできません。そのため、早期の発見と適切な対応が重要です。
脂肪肝の症状SYMPTOMS

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症があっても初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、多くの場合、健康診断の画像検査や血液検査で初めて異常が発見されます。
しかし、疲れやすさ、倦怠感、食欲不振、腹部右上の鈍痛などの症状が現れた時には、すでに炎症がかなり進行している可能性があります。早期発見のためにも、定期的な健康診断を受けることが重要です。
脂肪肝の原因CAUSE
脂肪肝の主な原因は飲酒と生活習慣です。脂肪肝は大きく分けて、過度の飲酒が原因となる「アルコール性脂肪肝」と、飲酒以外の要因によって発症する「非アルコール性脂肪肝(NAFLD:ナッフルディー)」の2種類があります。
一般的に、脂肪肝は飲酒が主な原因と考えられがちですが、現在の日本ではアルコール性脂肪肝よりもNAFLDの方が多いとされています。
NAFLDの主な原因は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの生活習慣病と深く関係しています。食生活の欧米化や車中心のライフスタイルが影響していると考えられています。
一方で、極端なダイエットによる飢餓状態も脂肪肝の発症リスクを高めることがあり、特に若い女性は注意が必要です。
また、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)は30歳以降の男性に多く見られ、これは30代になると内臓脂肪がつきやすくなるためと考えられています。女性の場合は、閉経を迎える50歳前後に急増しますが、これはエストロゲン(女性ホルモン)の分泌低下が関係しています。
脂肪肝は遺伝?
肝臓に脂肪が蓄積しやすい体質には遺伝的要因が関係していることが分かっています。特に、PNPLA3遺伝子に変異を持つ人(日本人の約20%)は、肥満でなくても脂肪肝や腎機能障害を発症しやすいことが明らかになっています。
脂肪肝の検査EXAMINATION

診断には、腹部超音波検査(腹部エコー検査)や採血検査が一般的に用いられます。
採血検査では、γ-GTP、AST(GOT)、ALT(GPT)の数値が上昇することが多く、いわゆる「肝機能の数値が高い」状態として確認されます。
また、腹部超音波検査では、脂肪肝の特徴的な所見である「肝腎コントラスト」が観察されることが多く、診断の参考となります。
脂肪肝の改善
脂肪肝を減らすにはどうしたらいい?
TREATMENT
脂肪肝を改善するには、食事・運動・生活習慣の見直しが重要です。脂肪肝の主な原因を取り除くことが、最も効果的な対策となります。
脂肪肝改善のポイント
お酒を飲む方
- 禁酒または飲酒量の制限
肥満の方
- 食事療法(間食を控える、栄養バランスを意識した食生活)
- 運動療法(30分以上の散歩や有酸素運動の習慣化)
採血検査の数値は比較的早く改善しますが、腹部エコー検査の結果は時間をかけて徐々に良化するとされています。そのため、採血検査は3〜4か月後、腹部エコー検査は1年後に経過フォローのため再検査を行います。
また、脂肪肝の患者の多くは糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を併発しているため、これらの治療も同時に行うことが重要です。当院では、肝臓疾患の治療に加え、生活習慣病の管理も含めた包括的な診療が可能です。
脂肪肝に良い食事MEAL
適度な食事量
1日に必要な摂取エネルギーの目安は、「標準体重×25~30kcal」で計算できます。この数値を参考にしながら、適切な食事量を意識しましょう。標準体重は「身長(m)×身長(m)×22」で求められます。
例えば、身長が170cmの方の標準体重と摂取エネルギーの目安は以下のようになります。
- 標準体重…1.7(m)×1.7(m)×22=約63.5kg
- 摂取エネルギーの目安…63.5×25=約1,588kcal(30をかけた場合は約1,905kcal)
適切なエネルギー摂取量を守りながら食事を楽しむには、蒸す、網焼きにするなどの調理法を取り入れ、余分な脂をカットするとよいです。
食事は野菜から食べ始める
食事をとる際は、まず野菜が入った副菜や汁物から食べ始め、次に肉や魚を使った主菜、最後にごはんやパンなどの主食(炭水化物)を食べるようにしましょう。
野菜を最初に食べることで得られるメリットは二つあります。
一つ目は、先に野菜を食べることで胃がある程度満たされ、食べ過ぎを防ぎやすくなることです。
二つ目は、食後の血糖値の上昇をゆるやかにすることです。食後に血糖値が急激に上がると、インスリンというホルモンが分泌され、余分な糖が中性脂肪として蓄積される原因になります。
また、野菜は1日350g以上を目安に摂ることを意識しましょう。次のような工夫を取り入れることで、無理なく野菜を多く食べることができます。
- 毎食、副菜として野菜を取り入れる
- 主菜の付け合わせに生野菜や温野菜のサラダを加える
- 野菜をたっぷり使った味噌汁やスープを取り入れる
果物や主食(ごはん、麺類など)を食べ過ぎない
日常的に糖分を過剰に摂取すると、脂肪肝を引き起こす可能性があります。ごはんやパン、麺類など糖分を含む食品は適量に抑えましょう。また、果糖は体内での吸収が早く、肝臓で中性脂肪に変わりやすいため、果物の食べ過ぎにも注意が必要です。
お茶(緑茶)を飲む
緑茶に含まれるカテキンは、肝臓で発生する活性酸素を抑える働きがあると注目されています。活性酸素はストレスや紫外線などによって発生し、NASHの発症に関わる可能性があるため、緑茶を飲むことが脂肪肝対策に役立つと言えるでしょう。
禁酒または飲酒を減らす
お酒の飲み過ぎで脂肪肝になっている方は、禁酒や節酒を意識しましょう。脂肪肝の初期段階では、2~4週間の禁酒で改善が見込めることがあります。女性や、飲酒後に顔が赤くなりやすい方は、さらに少ない量が推奨されます。
種類 | 量 | アルコール度数 | アルコール換算量 |
ビール(中瓶1本) | 500ml | 約5% | 20g |
焼酎 | 1合 180ml | 約35% | 50g |
日本酒 | 1合 180ml | 約15% | 22g |
ワイン(1杯) | 20ml | 約12% | 12g |
ウイスキー | ダブル 60ml | 約43% | 20g |
代謝異常関連脂肪肝(MASLD)MASLD
診断には、腹部超音波検査(腹部エコー検査)や採血検査が一般的に用いられます。
採血検査では、γ-GTP、AST(GOT)、ALT(GPT)の数値が上昇することが多く、いわゆる「肝機能の数値が高い」状態として確認されます。
また、腹部エコー検査では、脂肪肝の特徴的な所見である「肝腎コントラスト」が観察されることが多く、診断の参考となります。